「お父さんは、帰国してから結婚し、渡辺さんが生まれることになるのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。細かいことは聞いていないのですが、食べ物も、何もない時代だったので、農業をして食べていけるようにし、山際に工場も立ち上げたようです。」

「なるほど。物資がない時代に、食べ物に不自由しなくなり、お金も入るようになったので、結婚したのですね」と町会長。

「その辺の事情は、詳しく聞いていないのですが、多分、そういうことだと思います。僕が不思議に思ったのは、物資がない時代に工場を持っていれば、いくらでもお金が入ってくると思われるのに、何年もしないうちに工場をたたみ、給料が安い東京消防庁で消防士として働くようになったことです。」

「それは不思議ですね」と町会長。

「当時は、消防士の給料も安く、生活に困窮していたので、休みの日などに同僚を連れて来て、農作業を手伝わせ、たらふく食べさせて、食料をお土産につけて帰らせたようです。」

「都内から休みの日に八王子の渡辺さんの家まで来て、農作業を手伝うということは、食べていくのが大変な時代だったということですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。父は工場で稼いだ金もあったので、そういうことをする余裕があったのだと推定しています。」

「不思議な話ですね。なぜ、消防士になりたかったのでしょうか」と町会長。

「最近になって、ようやく気がついたのですが、それも抜刀術と関係があるようです。」

「お父さんの不思議な行動は、いつも抜刀術と関係があるのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。父は、『中国人が敵を討ちに来る』と考えていたようです。」

「中国人が敵を討ちに来ると思っていたので消防士になったということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。ウィキペディアの『剣道』によると、1945年(昭和20年)8月15日に日本が敗戦し、連合国軍(GHQ)に占領され、1945年(昭和20年)11月6日に学校における剣道が禁止され、1949年(昭和24年)5月21日に警察における剣道が禁止されています。」

「そういう時代だったのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。しかし、ウィキペディアの『剣道』には、『昭和27年(1952年)、サンフランシスコ講和条約発効にともない連合国軍の占領が解かれると、同年に全日本剣道連盟が結成され、剣道の復興が始まった』という記載があります。」

「お父さんが、消防士になったのは、剣道の復興と関係があるということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

2021/6/11

<イエスズメ外伝3>
カラスが激減したのはウエストナイル熱のせいではないようだ。イエスズメは去年毎日カラスに襲われ、樫の木の防風林の枝の中を南から北に、あるいは北から南に逃げなければならなかった。そのため、カラスが飛べない狭いところを飛ぶ技術を身に着けたようだ。空中に停止した状態で飛んでいるのを見たこともある。

その極めて高い飛行技術が昆虫を捕まえるのに役立っているということらしい。スズメは稲の種子を食べることが知られているが、イエスズメは昆虫が主食のようだ。セミを食べるので疑う余地がない。スズメバチもアシナガバチもミツバチも食べてしまうのだ。とりわけ、スズメバチの巣は大きくて目立つので、春、女王蜂が冬眠から目覚め、巣を作り始めたところを幼虫と一緒に食べてしまったのだろう。<続く>

24/5/29