「昔から整体師は長生きだが、天才的な鍼灸師は短命であることが知られています。整体師は自分の体を治療できないが、天才的な鍼灸師は自分の体を治療できるため、硬結を緩めていけば内臓の機能が上がり、体力がついて、最後には若返るかもしれないという想念に取りつかれ、自分の体を使った治療実験をしてしまうのです。そして何年もかかって、やっと全身の硬結を緩め切ったと思った翌朝、全身に硬結が現れ、腎虚がひどくなって、四十代で亡くなってしまいます。」

「硬結というと何か固いもののことですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。東洋医学では、筋肉とか皮膚が固くなったところを硬結と言いますが、触診で分かりやすいのは、筋肉が固くなったところです。僕も同じ想念に取りつかれて、全身の硬結を緩めようとしてきました。なぜかと言うと、硬結が経絡の気の流れを止めたり、弱くしたりするためです。硬結を全て緩めれば、脳や臓器の機能が上がって、肥田春充のようなスーパーマンになれると思われるからです。しかし、半年ぐらいかかって全身の硬結を緩め終わったかと思った翌朝、起きようとすると、体が動かず、布団から出ることさえできない状態になっていました。『人生が終わってしまったのか』と思いましたね。天才的な鍼灸師は、同じ状態になって亡くなられるのだと思います。」

「なぜ渡辺さんだけ助かったのですか」と町会長。

「自作したピラミッドにパワーがあったので、寝ている間に体が限界まで縮まなかったためです。体がわずかに動いたので、前の晩に使ったピラミッドを手探りで見つけ、腎の治療をしたら、午後の2時ごろになって、ようやく動けるようになりました。」

「硬結を緩めると、寝ている間に体が縮むのですか」と町会長。

「硬結を緩めなくても、寝ている間に体は縮みます。人間の体は年周期と日周期で縮んだり緩んだりしています。目が覚めると交感神経が働き出し、内臓の機能が上がるので、体が緩んでいきます。体を動かすと内臓はさらに緩みます。気温が上がれば、体はさらに緩みます。そして夕方になり、気温が低くなると体は縮み始めます。夜になり、寝ると交感神経が働かなくなるので、内臓の機能が低下し、体は縮んでいきます。気温が一番下がる4時ごろが一番縮んでいるはずです。

肥田春充という戦前から戦後にかけて活躍したスーパーマンがいるのですが、朝起きるときに、寝た状態でお腹をそらして、肥田式強健術をしています。寝ている間に体が縮み、体力が低下して、起き上がるのが大変だったためだと推定しています。」

「肥田式強健術でも腎の機能が上がるのですか」と町会長。

2019/9/24