「イノシシに向かって全速力で突進したのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。今までの研究でイノシシが逃げると確信していました。」

「と言いますと?」と町会長。

「イノシシが門から庭に侵入してきたのは、僕と戦うためではありません。」

「と言いますと?」と町会長。

「イノシシは、人間の縄張り内では、必ず線的な行動を取るのです。」

「と言いますと?」と町会長。

「常識的に考えれば、僕がいる庭に入るのを避けて小道づたいに東に向かって逃げるはずですが、線的な行動を取るイノシシは、まっすぐ行かずに門の中に入って来たのです。」

「イノシシは小道を門より東に行ったことがなかったので、何度も歩いたことのある庭の中に入って来たということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。庭の中には落とし穴や罠がないという確信があったということです。そして、僕が突進してくるとは思っていなかったということです。」

「なるほど」と町会長。

「立派に成長したイノシシにぎょっとしましたが、僕が自分のテリトリー内で臆病風に吹かれたような行動を取るようなことがあれば、逆に襲ってくるかもしれないと思いました。」

「それで、成長した2匹のイノシシに向かって全速力で突進したのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。僕もイノシシに向かって全速力で突進したことはありませんが、イノシシも人間が全速力で向かってくるのを見たことはないだろうと思っていました。」

「線的な行動を取るイノシシは、勝つ確信がない戦いは避けて逃げるはずだと思ったということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

「もし、イノシシが向かって来たら、どうするつもりだったのですか」と町会長。

「懐中電灯で、頭をゴツンとやって、ひるんだところを足でけり上げるつもりでした。」

「なるほど」と町会長。

「しかし、だてにイノシシを2年も研究しているわけではありません。そんなことは起こらないという確信を持って突っ込みました。」

「年寄りの冷や水と言われそうなことは起こらなかったのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。2匹のイノシシは、西から突っ込むと、東に向かって見たこともないような美しい跳躍を見せました。」

「美しい跳躍といいますと?」と町会長。

「イノシシが走ったというような感じではなく、狼だったらするかもしれないというような、華麗で大きな跳躍でした。」

「といいますと?」と町会長。

「2匹のイノシシが曲芸でも仕込まれたように、前足4本と後ろ足4本もぴったりとそろえ、背をそらして空中を飛んだのです。ご褒美を出したいくらい美しい空中姿勢でした。イノシシの知力が感じられるような跳躍でした。」

「以前うり坊が逃げる時に見せた、おもちゃのスクーターが走るような走りとは全く違っていたのですね。」

「おっしゃる通りです。イノシシは3回華麗な跳躍を見せると東側の茶ノ木の向こうに消えていきました。そして、その後2度とイノシシを見ることはありませんでした。」

2021/12/14

<水道後記85>
実験用に7メートル掘るのに3日ほどかかった。そして、翌日、ポリエチレン管を埋めた。ポリエチレン管の表面に等圧で土から力が伝わるのが基本的な考え方なので、最初の4,5cmは大きな石や土の塊が入らないように気をつけながらポリエチレン管に土をかけた。そして、ポリエチレン管の下にも満遍なく土が入り込むように棒でポリエチレン管の脇を突いてから靴で軽く踏みつけた。この作業が終わると、オカメジョレンで脇に盛り上がっている土を穴の中に落とすだけだ。

土を固める道具は持っていないので、穴の上に盛り上がっている土を満遍なく足で踏みつけた後、車で中央の5mほどの幅を行き来した。<続く>

2024/11/28