「実は、川上さんは家で英語の学習塾をしていました。」

「東大で教えながら家で学習塾をしていたのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。僕は、元々、他人のすることには関心を持たないタイプなので、不思議な話だとは思ったのですが、詮索をすることもなく聞き流していました。」

「なるほど」と町会長。

「ただ、高校生のお嬢さんに英会語を教えてもらえないかと頼まれたとき、『どうして?』と聞き返したことがあります。」

「川上さんは何と答えたのですか」と町会長。

「『渡辺さんはプロだから』と言っていました。」

「なるほど」と町会長。

「しかし、『予備校でも働いたことがある』という話を聞いていたので、自分こそプロではないかと思ったのですが、気が合う友達の頼みなので、あえて何も言わずに引き受けてしまったのです。」

「実に不思議な話ですね」と町会長。

「そうなんですよ。その頃は、父親の娘に対する想いというのが分からなかったので、川上さんが何を考えているのか分からずに、安請け合いをしてしまったのです。」

「と言いますと?」と町会長。

「お嬢さんを教えてみると、川上さんのように聡明ではないのです。」

「父親に似ていない娘ということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。川上さんの奥さんは、川上さんが選んだ人ですから聡明な人だと推定しています。」

「それでは、なぜ親に似ない娘が生まれたのでしょうか」と町会長。

「分かりません。僕は川上さんの娘に対する想いに気がつかず、コミュニケーションが取りにくいという不快感を感じたので、3カ月ほど教えただけでアメリカ人の先生にバトンタッチしてしまいました。」

「川上さんは何も言わなかったのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。日本語の構造に関する議論は、いつものように続いていました。謎が解けたのは、お嬢さんが東大に入学した時でした。」

「川上さんのようには聡明ではないお嬢さんが、東大に入学したのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

2021/10/4

<猫後記15>
中門の屋根の下に、スピーカーと超音波発生器と配線分岐コネクター
を取り付けようとすると、基盤のようなものが必要なことが分かった。

手持ちの板があったので、15センチX17センチくらいの大きさに切り、黒色で塗装して基盤を作った。2つのスピーカーの配線は、2mの長さの7色の耐熱ビニル絶縁電線が1袋に入っているものを購入して使った。

中門の西の端に取り付けると結構立派な装置のように見えた。この装置を見た人は防犯ための装置だと思ったかも知れない。効果は翌日からあった。中庭をうろつく猫が1匹もいなくなったのだ。<終わり>

2024/9/18