「家康が、武田信玄との『三方ヶ原の戦い』で大敗したときに、その場で絵師に書かせたという三方ヶ原戦役画像というのがあります。」

「籠城している家康の浜松城を無視して、信玄が浜松城を通り過ぎたので、家康が作戦を変えて追撃に出たときの話ですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

「信玄は無視したふりをしただけだったのですよね」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

「武田軍が祝田の坂を下ろうとしているところを後ろから一気に殲滅しようとしたら、信玄は三方ヶ原台地で魚鱗の陣を敷き万全の構えで待ち構えていたのでしたね」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

「驚いた家康が鶴翼の陣で応戦したが、2時間もしないうちに撃破されて、家康は命からがら浜松城に逃げ帰ったという話ですよね」と町会長。

「おっしゃる通りです。家康は、この敗戦を肝に銘ずるために、信玄に敗れた情けない姿を描かせ、慢心の自戒として生涯身近なところに置いていたという話を読んだことがあります。『君の碁は分かった』と言われたとき、この話を思い出してしまいました。」

「棋士と言うのは、普通の人間ではないのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。このとき、初めて、棋士というのが、どういう人間なのか理解できたような気がしました。」

「なるほど。ところで、武宮正樹本因坊とも日本棋院で打ったのですか」と町会長。

「とんでもありません。自分が弱いことは十分知っていましたから、武宮正樹本因坊と対戦するなどという、だいそれたことは考えたこともありませんでした。」

「それでは、なぜ、武宮正樹本因坊と打つことになったのですか」と町会長。

「曲9段に5目で勝ってから、2ヶ月ほど経った頃、先生が今度の日曜日に武宮正樹本因坊をむかえて、碁の会を開くので、出席するようにと言われました。」

「渡辺さんと打たせるために、武宮正樹本因坊を呼んだのではないのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。日曜日に、時間ぎりぎりに会場に行くと、黒山の人だかりで、本因坊は碁盤の前に着席していましたが、対戦相手がいませんでした。」

「黒山の人だかりで、本因坊が席についているのに対戦相手がいないのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。『人がいっぱい来ているな』と思っていると、先生がつかつかと僕のところへ来て『おまえ、打て』と言いました。」

「突然、『おまえ、打て』と言われたのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。『5段の人はいっぱいいるのだから、5段になりたての僕が打たなくても』と思ったのですが、『誰か打つことになっていた人が、急病になったか、ビビってしまって会場に来なかったのかも』と思いました。『僕が打たなければ、ひと揉めすることになるだろうし、それでは本因坊に失礼になるだろう』と思い、『分かりました』と即答しました。」

「なんとも不思議な話ですね」と町会長。

「そうなんですよ。」

「武宮正樹本因坊には、何目で打ったのですか」と町会長。

「先生が5目で打つように言ったような気がします。」

「今度は、5目で負けてしまったのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。黒山の人だかりの中で、碁を打ったのが初めてだったので、不覚にも上がってしまいました。」

「なるほど。上がってなければ勝てたのですか」と町会長。

「上がってなくても勝てなかったと確信しています。武宮正樹本因坊の打つ手は、序盤からカミソリのように鋭い、才能にあふれた手で、たちまちのうちに追い込まれ、中盤に差し掛かっる前に、中央の大石を取られてしまいました。」

「今度は、大石を取られてしまったのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。今まで中盤前に惨敗したことはなかったので、『こういう時は、「ありません」というのだよね』と思ったのを今でも覚えています。」

「『負けました』ではなく、『ありません』と言ったのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。そのとき『ありません』といのは、『もう打つ手がありませんという意味なんだ』と気がついた記憶があります。」

2020/6/22

<筆者の一言>
先日、裏庭で梅をもいでいると、若いカップルが『梅をもいでいるんですか』と声をかけてきた。『3年前までは梅干しを買っていたんですが、去年、薬効に気がついて梅干しを作ってみたんです』と話した。

『薬効?』と聞くので、梅干しの作り方の説明などしていたのだが、なんか感じが良いカップルなので、うっかりウェブの話もしてしまった。『去年はアクセスが30万ぐらいだったのですが、つい最近まで書いていた「猫」がヒットし、今書いている「ムクドリ」がヒットしているので、多分、読んでいる人の数は2百万くらいです』と言ったら、『2百万!』と驚いた。『ウェブで僕が書いた薬が売り切れたり、あまり売れていない本について書いたら、3日後にアマゾンでプライムになっていました』と説明した。

『読んでみたい』と女性が言ったが、Google対策もしていないので、『検索しても出てこないと思います』と答えた。そして、お別れしたのだが、女性の方が『読んでみたい!読んでみたい!』と大声で言いながら帰って行った。

先程、『Google対策が全くしてないわけではない』と思い出した。『秘密の話』のサイト内検索にGoogleを使ったのだ。利用料としてGoogleは勝手に広告を出すのだが、『広告料が多く入れば、Googleの検索順位が上がるはずだ』と推定したのだ。

3年ほど前、『世に知られざる秘密の話』で検索したが、下位ページにも現れなかった。ところが、今日、『世に知られざる秘密の話』で検索すると、なんと1位だ。Googleはしっかり利用料を稼いでいる。

<ムクドリ39>
翌朝、『ご指摘通り白死です』というタイトルのメールが届いた。メールからは、思い切りぎゃふんしている気が出ていた。『やったね』と思った。メールには、

『渡辺様
いつもありがとうございます。
ご指摘通りの手順でも、しっかりダメヅマリをついており白死です。
ご指摘手順の黒5と黒7の順番を逆にした場合も全くの同形で正解となっています。
データを確認したところ、この問題には214種類の正解手順と不正解手順が入力されていました。
手順入力者が疲れて見落としが生じてしまったと思われます。
言い訳にすぎませんが、ご容赦のほどよろしくお願いいたします』と書かれていた。

『手順入力者が疲れて見落としが生じ』と思い込んでいるので、やはり、トッププロが何人も詰碁の問題をチェックしているのだと確信した。そして、もう1つ気がついたことがあった。データー領域をいじれるようなので、『この人は、プロの棋士のくせにプログラミングもできるんじゃないか』と思ったのだ。<続く>

2023/6/5