<卓球がぐちゃぐちゃに(1)>

梅澤さんは僕の心虚の問題を熟知していたのだ。以前動体視力が上がってサーブが入らなくなったとき、『プレッシャーだね』と嬉しそうにいったことがあった。あの時、僕は動体視力が上がってミスが増えたと単純に思っていたが、梅澤さんは僕に心虚の問題が起っていることに気がついていたのだ。そして、今回は『動体視力が1時間ごとに明確に低下していく』という誰も経験したことがない強い心虚になってしまっていることが分かっているので、どういうサーブを出せば僕が打てないか分かっていたのだ。

梅澤さんが尊敬する社長も強い心虚で、友達から『ノミの心臓』と言われていた。卓球大会では、2位になることはできても、決勝戦のプレッシャーで優勝することはできなかった。その社長から心虚に関する色々な話を聞いてきたに違いない。また、卓球仲間の中に練習では一流の技術を見せるのに、試合になると極端に弱い人がいることにも気がついただろう。そしてスーパー東大系の頭脳を使って、どういう状況だと自分がミスをするのか徹底的に研究して来たに違いない。また、強烈なサーブを使う心虚がひどい人と対戦するとき、どうすれば勝てるかも研究して来たに違いない。

梅澤さんは、前回の試合で僕がスマッシュを決めたサーブに似通ったコースのサーブを出してきた。スピードは遅いのだが、どうしても振り遅れてしまう。何度同じサーブを出されても空振りしてしまうのだ。フォアサイドにストレートに来て、エンドラインから5センチくらいのところに着地するサーブも足が間に合わず、打つことができなかった。フットワークは足の筋肉が緩んで速くなっているので、もっと早い球を相手のフォア側に打つこともできるのに、足が間に合わないのだ。この2つのサーブで僕の卓球はぐちゃぐちゃになってしまった。

2022/9/1