見出し1アメリカ英文法について

株式会社渡辺米会話研究所
代表取締役 渡辺昇一

英作文.netの教材はアメリカ英文法に基づいて作られている。 「中学で習う英語の基となる文法とアメリカ英文法の間には、ほとんど違いが見られない」ことや「イギリス英語と比較すると標準化が進んでいる」こと、「アメリカが世界経済と文化の中心に位置するため、アメリカ英語と接触する機会が多い」ことなどが、その主な理由である。 しかし、大学教授を含むほとんどのアメリカ人が「アメリカ英語とイギリス英語は文法的には同じであり、単語の意味やスペル、発音などが違うだけ」と考えているため、アメリカ人によるアメリカ英文法の研究は進んでいない。 唯一信頼の置ける研究は、イギリスの出版社ロングマンの「A COMPREHENSIVE GRAMMAR OF THE ENGLISH LANGUAGE」に記載されているアメリカ英語に関する記述であるが、研究に参加したアメリカ人教授も同様の考えを持っていると推察されるため、 記載事項が正しいかどうかを(株)渡辺米会話研究所が独自に調査し、確認が取れたものをアメリカ英文法として採用した。
「日本人が習うべき英語は、アメリカ英語かイギリス英語か」については、様々な意見があると思われるが、(株)渡辺米会話研究所を設立するにあたり、「アメリカ英語かイギリス英語か」に関して検討した項目を参考のために紹介する。

見出し2(1)大学を卒業したイギリス人から観たアメリカ英語とオーストラリア英語

大学を卒業したイギリス人に、「アメリカ英語についてどう思うか」と聞くと、「アメリカ人の英語は、誰が話しても分かるが、イギリス人の場合は、何を言っているのか分からないことがある」という答えが返ってくる。「アメリカの南部英語やニューヨーク英語についてどう思うか」と聞くと、「イギリス英語は、方言による違いだから、何を言っているのか分からないことがあるが、アメリカ英語はアクセントによる違いだから、大学を卒業した人が話す英語は誰が話しても理解できる。」
「オーストラリア人は、イギリス英語を話す」と主張する人が多いが、どう思うか」と聞くと、「オーストラリア人が話す英語は、イギリス英語ではない。実際の話、聞き取れないことが多い。」という返事が返ってくる。

見出し2(2)ジョーンズ式発音記号

日本の中学校の英語の教科書は、ジョーンズ式発音記号を使って、英語の発音の仕方を説明してきた。ジョーンズ式発音記号は、ロンドン生まれの音声学者、ダニエル・ジョーンズがAn English Pronouncing Dictionaryで使ったもので、大正時代からジョーンズ式発音記号を取り入れている日本の辞書もある。
ダニエル・ジョーンズは、自分が学んだケンブリッジ大学の卒業者が話す上流階級の英語の発音を記録して、An English Pronouncing Dictionaryを編纂した。「公立の寄宿学校で教育を受けると、方言がなくなり、標準的な発音になる」という仮説を持っていたため、当初"Public School Pronunciation" (PSP)という名前を使ったが、途中から"Received Pronunciation" (RP)という名前を使うようになった。RPを話す人は、イングランドの人口の数パーセントであったが、大学を卒業して、学術的な研究をしたり、国際的に活躍したり、医師や弁護士、BBCのアナウンサーになったりする人の多くは、RPを話したため、英語を勉強する外国人は、RPをイギリス英語の標準発音と信じて、勉強した人がほとんどだったと思われる。
アメリカ人は、労働階級が話すコックニーは理解できないことが多いが、イギリスの上流階級が話すRPは理解でき、RPを話すイギリス人は、アメリカ英語が理解できるという興味深い事実がある。そのため、アメリカ人はBBCのニュースを何の問題もなく理解できるし、RPを話すイギリス人は、CNNを何の問題もなく理解できる。ジャポノロジストとして有名な、ニューヨーク生まれのドナルド・キーン氏は、コロンビア大学を卒業後、ケンブリッジ大学に留学するとともに、教鞭も執ったが、「留学前に心配したような、アメリカ英語とイギリス英語の違いによる問題は起こらなかった」と書いている。

見出し2(3)標準イギリス英語や標準アメリカ英語は存在しない

日本人の英語学習者は、標準イギリス英語や標準アメリカ英語を話す外国人の先生を捜す人がいる。しかし、標準イギリス英語や標準アメリカ英語は存在しない。
英会話を勉強したいと考えている人の中には、「ロンドンでは、標準イギリス英語が話され、ニューヨークでは標準アメリカ英語が話されている」と思い込んでいる人が多い。しかし、花売り娘、イライザにオードリー・ヘップバーンが扮するマイ・フェア・レディーを見ると、同じロンドンに住んでいても、階級や学歴、地域などによって、異なる英語が話されていることが分かる。音声学者のヒギンズ教授は、話し方を聞いただけで、学歴や出身地、現在住んでいるところなどを当ててしまうほどだ。イーストエンドにあるセント・メリルバウ教会の鐘の音を聞いて育った人は、コックニー(生っ粋のロンドン子)と言われるが、この人達はコックニー・イングリッシュと呼ばれる労働者階級の方言を話す。例えば、「Monday」が「マンダイ」、「house」が「アウス」、timeが「トイム」などのように発音するので、ジョーンズ式の発音を習った日本人には、何を言っているのか分からないことがある。

見出し2(4)識字率と標準語

言語は、時間の流れとともに変化する。識字率が低ければ、変化が速く、高ければ、遅いことは容易に想像できる。また、文字が英語のように表音文字で、識字率が高ければ、発音の仕方も均質化しやすいと思われる。
RPを標準英語としてダニエル・ジョーンズが定義したのは、イングランドに住む上流階級の人は、住んでいる地域に関係なく、PRを話したためである。労働階級が話す英語が様々な方言に分かれているのに対し、 上流階級が話す英語が標準化されているのは、労働階級より上流階級の方が識字率が高かったことが一因であると思われる。

見出し2(5)日本における標準語の成立と識字率

日本語には、「標準語」という概念があり、東京に住む人やテレビやラジオのアナウンサーは「標準語」を話していると、一般的に考えられている。 「標準語」を作るという政策は、欧米列強によるアジアの植民地支配に危機感を抱いた明治政府によって、富国強兵のための政策の一環として、近代的な中央集権国家を作るために行われた。全国から人材を集め、軍人や官吏、近代産業の中核として働くことができる人々を育成するため、学校教育を管理統制するには、東京方言を基礎にした標準語による教育が必要だったのである。この企てが、成功した原因の一つは、寺子屋の普及で江戸末期の識字率が高かったためと思われる。

見出し2(6)アメリカ英語とオーストラリア英語

オーストラリア英語は、Mondayが「マンダイ」、todayが「トゥダイ」のように発音されるなど、イギリスの労働階級が話すコックニー・イングリッシュと共通点が多い。また、アメリカ英語に比べると、発音が標準化されていないという特徴がある。
この違いは、植民地時代に、オーストラリアには、流刑囚や低所得の労働者が移民したため、識字率が低く、アメリカには、経済的に余裕がある人達が移民したので、識字率が高かったためと思われる。1775年にアメリカで独立戦争が勃発するが、それまでは、イギリスで流刑判決を受けた囚人は、アメリカの地主に売り渡されていた。戦争が始まると、流刑囚は牢獄船に収容された状態で、行き場が無くなり、数が増えるに従って社会問題になった。その収容先として選ばれたのが、1770年にジェイムズ・クックがニューサウスウエールズと命名し、イギリスが領有を宣言した東南部オーストラリアだった。
植民地初期には、輸出する農産物もなく、自給自足的農業で生活するしかなく、 1830年には、流刑囚と元流刑囚がニューサウスウエールズの人口の7割ほどであったが、その後、イギリス政府の補助を受けて移民する補助移民が急速に増えた。移民先としては、カナダやアメリカもあったため、経済的余裕がある人達は、アメリカやカナダに移民し、経済的に余裕がない労働階級がオーストラリアに移民することが多かった。植民地時代のアメリカは天然資源に恵まれ、木材や食料、タバコなどをヨーロッパに輸出し、生活に必要な物資を輸入できたので、入植当初から、母国と同じ生活レベルを維持することができた。 このような移民後の生活レベルの違いも識字率に影響を与えたため、アメリカ英語は、オーストラリア英語に比べ、標準化が進んだと思われる。

見出し2(7)カナダ英語

カナダには、大きく分けて4種類のアクセントがあるが、アメリカ文化圏内にあるため、アナウンサーや俳優は、General Americanと呼ばれるアメリカで最も多く使われるアクセントで話す伝統があり、カナダ中央部や西部でもGeneral Americanが使われるなど、アメリカ英語と大きな違いは見られない。

見出し2(8)急激に変化するイギリス英語

イギリスは、18世紀に起こった産業革命後、上流階級、中流階級、労働者階級の三つの階級に分かれたと言われている。
上流階級は、働く必要がない、王室、貴族と爵位を持たないジェントリと呼ばれる土地所有者から構成され、中流階級は、産業革命によって台頭した産業資本家や銀行家と弁護士、医師、機械技師、建築家など知的な労働に従事する人達から構成されていた。労働者階級は、肉体労働によって、生活していた人で、全人口の75%ぐらいであった。
1950年代における大学卒業者は、全人口の5%ぐらいで、上流階級に属さなくても、エリートのシンボルであるRPを話した。イギリスの大学進学率は1970年あたりから少しずつ増え始め、1992年の「継続教育と高等教育に関する法律」が制定されると、進学率急激に上昇した。この社会的変化と呼応するように1970年代から、文法的には"Received Pronunciation"の特徴を持ち、音声に関しては、コックニーなど、イギリス南部と東南部の方言を取り入れた"Estury English"を使う人が現れ、急激に広がっている。
"Estury"は、「河口域」を意味し、テームズ川の"Estury"で始まったので、"Estury English"と呼ばれる。"Estury English"は、労働者階級だけでなく、ブレア首相やBBCのアナウンサーなどのアクセントにも見られるようになり、階級を超えて広がっている。また、アクセントも"PR"に近いものからコックニー・イングリッシュに近いものなど、地域差や階級差がある。大学進学者の急増や"Estury English"の広がりは、イギリスの生産設備の近代化やハイテク化にともない、肉体労働者を必要としていた産業部門が、知的労働者を必要とするようになり、労働者階級が新中流階級へと変質してきているのが原因の一つになっている。

見出し2(9)一般米語(General American)

アメリカ英語のアクセントは、東部型、南部型、一般米語の三種類に分けられる。イギリスとの接触が最も多かった東部で話される英語が最もイギリス英語の影響が強く、南部型の方がイギリス英語の影響が少ないと言われている。最もアメリカ的な英語、一般米語(General American)は、イギリスから地理的に離れている中部から西部に及ぶ広大な地域で発達した。
一般米語や東部英語を話すアメリカ人は、不思議なことに、南部英語を蔑視する傾向がある。南部が農業生産が中心だったのに対し、北部は工業が発達し、都市化が早く進んだことや南北戦争で南部が負けたことが原因と思われる。
日本で英会話を勉強した人が聞くと、大学を出た人の英語は、どのタイプの英語でも理解できる。都市部に住む人が話す東部型の英語は、スピードが速いので聞きにくく、南部型の英語は、スピードが遅いので、聞きやすいという特徴がある。
一般米語(General American)は、癖がなく聞きやすいが、日本人は母音に敏感なためか、慣れないと、同じGEなのに、発声の仕方やスピードで、南部型の英語より聞きにくい場合がある。英語を話すスピードは、都市部に住む人は、郊外に住む人より速く話す傾向が強く、年齢的には、大学生が話す英語が最も速く、社会に出ると遅くなり、年を取るとさらに遅くなる傾向がある。

見出し2(10)アメリカ英語かRPか?

アメリカ英語かRPを習えば、BBCやCNNが理解できる人なら、どちらで話しても問題なく理解してもらえる。 アメリカ英語を話すメリットは、ネイティブスピーカーの数が、RPを話す人よりも、圧倒的に多いこと、アメリカが世界経済の中心地なため、アメリカとのビジネスチャンスの方が多いことなどが考えられる。
ヨーロッパ言語を話す人達は、自分たちの話す言葉に誇りを持っていて、日本人のように、多数の人達が話す言葉に合わせようという気持ちがないのが特徴である。映画を見ても、ニューヨークのギャングはニューヨークアクセントで、カリフォルニアがバックグラウンドのソープオペラはGAで、イギリス人が登場人物すればイギリス英語で、中国人は中国人なまりのある英語で話している。日本人が日本語的なアクセントのある英語を話しても、日本人が外国人の日本語に持つような強い違和感は持たない。しかし、どちらの英語を勉強しても、英語を話しているとき、ブロークンになったり、基本的な文法を間違えたりするようでは、流暢に話せるようになったとき下層階級の人間であるという印象を与える結果となる。どちらを習うにしても、文法的に正しい英語を話すことが大切である。

見出し2(11)アメリカ英語と文法

アメリカ英語を勉強しようとすると、イギリス英語の文法書はたくさんあるのに、実用的なアメリカ英語の文法書がないことに気がつく。アメリカ英語について書いてある本は多いが、単にアメリカ英語とイギリス英語の表現の違いについて書いて、お茶を濁しているものがほとんどで、体系的なものは見つけるのが難しい。英語で書かれたものでも、アメリカ英語の文法を、英語学習者の役に立つように体系づけて書いてあるものは少ない。あってもよく見ると、イギリスで出版されている。
イギリス人は、大学へ行くためのパブリックスクールやグラマースクールで古典ラテン語やギリシャ語の文法を習った歴史と伝統があるためか、英文法を学校で学んでいる。アメリカ人は、中学校や高校で、日本人が大学で習うようなチョムスキーの変形生成文法を習ったりするのだが、英文科を卒業していても、"present participle"や"subjunctive"などの文法用語の意味を正確に知っている人は少ない。英文法を教えるのは100年も前からあるようなほんの一部の中高校だけで、アメリカ人が文法について指導を受けるのは、大学で論文を書くようになってからだ。
「文法的に分からないことがあるとイギリスのロングマンという会社で出版している『A COMPREHENSIVE GRAMMAR OF THE ENGLISH LANGUAGE』を使う」とアメリカ人の英文科の大学教授から聞いたことがある。これで分からなければ、方法はないそうである。この大学教授にしても、『A COMPREHENSIVE GRAMMAR OF THE ENGLISH LANGUAGE』を通読しているわけではない。必要な部分だけを読んでいるとういうのが偽りのないところだ。日本でも手にはいるが、専門家向けの英語で書いてある分厚い本なので、ジャパンタイムズが辞書無しで何とか読めるレベルに達していないと、積んでおくだけで終わってしまう。

見出し2(12)学校文法の問題

英作文の解答の正誤を判定するのは想像を超えた難しさがある。教養のあるアメリカ人が正しいと判定したものを正解とし、間違っていると判定したものを誤答とすれば良さそうだが、そうすると問題が生じるケースが出てくる。
例えば、日本の中学校や高校では、スポーツの場合は"play baseball"のように"the"を付けないが、楽器の場合は"play the piano"のように"the"を付けると教えている。しかし、アメリカでは"play piano"という表現は"play the piano"と同様に頻繁に使われるため、アメリカ人に正誤の判定を依頼すると必ず正解とされる。実際、有名なプロの奏者が話しているのをCDで聞いてみても、Stanley Clarkeは"I play bass"と言い、Ndugu Chanclerは"I play the drums"と言っている。
それでは、"play piano"を正解とすれば、という人がいるかも知れない。イギリス人は"play the piano"というのが一般的なこともあり、日本の教育界で"play piano"が正しい英語であることを知っている方は少ないため、これを正解とすると受験等で問題が生じる可能性が高い。この問題を避けるため、アメリカで"play the piano"と言っても違和感を感じる人はいないことを考え、英作文.netでは"play piano"を誤答としている。
"I have gone to the supermarket."はアメリカ英語としては正しい表現だが、受験等で「私はスーパーに行ってきたところです。」を"I have gone to the supermarket."と訳すと間違いになる。受験英語では、"have gone to"は結果を表すので、完了を表すためには"have been to"にしなければならないことになっている。英作文.netは、このような場合誤答にしてあるが、誤答解説で、

  • ・アメリカ英語としては正解ですが、学校文法では"have gone"が結果を表すとされるため、誤りとなる可能性があります。
  • ・受験等で英作文を勉強される方は、経験や完了を表す場合、"have been to~"と覚えておいた方が無難です。

のように説明してある。
「彼はカナダでスキーをしたいと言った。」は、学校文法では時制の一致で"wanted"になると説明されため、"He said he wanted to ski in Canada."を正解にし、"He said he wants to ski in Canada."を誤答にした。しかし、"He said he wants to ski in Canada."はこの文の発話時点においても、彼がスキー行きたいと思っていれば、普通に話される文であり、専門的な文法書にも「このような場合は時制の一致は起こさないことがある」という記述があるため、誤答解説では、

  • ・学校文法では時制の一致で"wanted"になると説明されため誤答にしましたが、実は、正解です。
  • ・彼がこの文が言われた時点においてカナダにスキーに行きたいと思っているときには、時制の一致は起こしません。

と説明してある。
一番困ったのは、"She is taller than I."や"She is taller than I am tall."のような比較級に関する表現である。教養あるアメリカ人に聞くと、「論理的には正しいかも知れないが奇妙な(strange)表現だ」という答えが返ってくる。
"She is taller than I."のような言い方をするアメリカ人がいるかどうかをウェブで調べていたら、英語文法の相談サイトで面白い記事を発見した。「実際そのような英語を話す人がいるとしたら、文法家の子供ぐらいでしょう。」という解答の後に、文法家の子という女性からが、「"than"の後には主格を用いてきたため奇異な目で見られ、嫌な思いをしてきた」という書き込みがあった。
アメリカでは、"She is taller than me."という表現が一般的であり、教養があることを自認する一部の人が"She is taller than I am."という表現を使う。極めてフォーマルなスピーチで"She is taller than I."のような表現を使う人はいるが、アメリカ人の多くは違和感を覚える。
『A COMPREHENSIVE GRAMMAR OF THE ENGLISH LANGUAGE』にも、「"He is more intelligent than she."のような表現は「形式的で不自然な印象(stilted impression)を与えることがあるので、"He is more intelligent than she is."のように言うのが望ましい」と書いてあるように、イギリス英語においても会話で使われる文型ではないため、英作文.netでは"She is taller than I."のような表現は誤答とした。しかし、受験等で不利益を被らないように、誤答解説に、「アメリカ人は違和感を感じるが、学校文法では正しいとされている」旨を書き添えた。
同様に「ジュディーは彼と同じくらい背が高い。 」は"Judy is as tall as he is."と"Judy is as tall as him."を正解とし、"Judy is as tall as he."は誤答とした。しかし、受験等で不利益を被らないように、誤答解説では、 ・アメリカ人は違和感を感じるが、学校文法では正しいとされています。 と説明してある。

見出し2(13)副詞の比較級

形容詞の比較級は上述のように"than"や"as"の後には、"than me"や"as him"のように目的格が来る構文が使われ、教養があることを自認する一握りのアメリカ人が"than I am"や"as he is"のように[主格+BE動詞]が来る構文を使う。副詞も同様に"Americans speak English faster than us. "が一般的に使われ、一部の人達が"Americans speak English faster than we do."のような構文を使っているにもかかわらず、「"Americans speak English faster than us. "が間違った英語である」と主張する人達がいる。また、そういう主張がアメリカ人によって書かれているホームページにも存在する。 また、英作文.netの問題は、毎日ウィークリーの『Machigai』でお馴染みのティム・ヤング氏に全問をチェックしていただいているが、そのヤング氏も牧師をしている父親から、「"Americans speak English faster than us. "のような"than"の後に目的格が来る英語を話してはいけない」と繰り返し言われている。
何故アメリカ人の一部の人達は、アメリカ人が一般に書いたり話したりしていることを否定するのだろうか。その答えは、アメリカ人の約75%がキリスト教徒であるというところにある。敬虔なるキリスト教徒においては、聖書に書かれていることが絶対である。旧約聖書の冒頭に書かれている「始めに言葉ありき」は、神の「光あれ」という言葉によって世界が誕生したことを意味している。その結果「言葉は万物の根源である」という思想がキリスト教徒の言語観となり、正しい英語を話すことが日本人が想像できないほど重要なこととなっている。そのため、英文法はつい最近まで「人はどのような言葉を話しているか」と言う観点ではなく、「人はどのような言葉を話すべきか」という観点から研究されてきた。
この流れを変えたのが、「人はどのような言葉を話しているのか」という観点から書かれた"A Comprehensive Grammar of the English Language"である。この文法書は、ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ(UCL)の教授であったRandolph Quirk氏が、日常使われている、100万語に及ぶ英語の言語データー(コーパス)をコンピューターで解析することにより作製したものである。
"A Comprehensive Grammar of the English Language"とコーパス言語学の研究により、"than"の後に動詞が続かない名詞が続く場合、“Americans speak English faster than us.” のように前置詞として使われることが明確になっているが、一部の学校が伝統的に「接続詞」として教えているため、大学を卒業した知識階級においても混乱が生じているのがアメリカ社会の現状である。
※日本人研究者がアメリカのホームページなどを見て、混乱をするかも知れない例として、"Tom likes Mary better than me."のような他動詞の構文を引き合いに出し、この文は"Tom likes Mary better than he likes me."を意味し、"Tom likes Mary better than I."は"Tom likes Mary better than I do."を意味すると説明する例がある。一見、説得力のある説明だが、前置詞として使われているとすれば、"Tom likes Mary better than me."は"Tom likes Mary better than he likes me."と"Tom likes Mary better than I do."の両者の意味で使われていなければならないことになる。これが事実であるかどうかをティム・ヤング氏に確認したところ、「両者の意味で使われている」という明確な答えが返ってきている。
※中学で習う英語の基となる文法とアメリカ英文法の間には、ほとんど違いが見られないが、仕事で英語を使う人にとっては、わずかな違いが大きな問題となることがある。ところが、大学教授を含むほとんどのアメリカ人が「アメリカ英語とイギリス英語は文法的には同じであり、単語の意味やスペル、発音などが違うだけ」と考えているため、アメリカ英語とイギリス英語の文法的な違いについて書いてあるサイトほとんどないというのが現状である。そのため、英文法の専門家ではないが、時間があるときに少しずつ、これまでの研究を「アメリカ英文法備忘録」として紹介して行きたいと思っている。