「僕は危機感を感じました。領子ちゃんが僕のところに来るようになったのは、再び英語を5にして、アメリカに短期留学したかったからです。」

「英語が5になると、アメリカに短期留学できるような制度があるのですか」と町会長。

「そういう制度はありません。領子ちゃんがお母さんに、『夏休みに短期留学したい』と言ったら、『1学期のときのように英語の成績が5になったら』と言われてしまったのです。」

「それでは、領子ちゃんは英語を勉強する気はあったのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。週に3日も来たので間違いありません。」

「やるきはあるのに、英文の構造が理解できないのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。頭がいいことは、教えてみてすぐ分かったのですが、英文の構造については、脳が受け付けないようなのです。」

「脳が受け付けないのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。普通の中学1年生は、英文を見て、なぜ、こういう意味になるのか考えますが、領子ちゃんは最初から意味が分かるので、英文の構造に対する関心がないようなのです。」

「不思議な話ですね」と町会長。

「そうなんですよ。『このままでは5が取れない』と確信しましたね。」

「それで、どうしたのですか」と町会長。

「日本語を英語にする練習をさせれば、日本語の文と英語の文の構造の違いを考えるようになるのではないかと思いました。」

「英作文をさせれば、英文の構造を考えるようになると考えたのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。それで、領子ちゃんが学校で使っている教科書に基づいて、英作文の問題を作りました。」

「結果は、どうだったのですか」と町会長。

「1年生の2学期から始めたのですが、2年生の1学期には5になっていました。」

「それでは、米国に短期留学できたのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。結婚の少し前から家内に英作文を教えていたのですが、その時使ったのが、領子ちゃんのために作った中1用の英作文の教材でした。」

「もしかして、奥さんは中1用の英作文が出来なかったのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。半年ほど教えたのですが、どうにもなりませんでした。」

「それで、どうしたのですか」と町会長。

「その頃は、まだ、家内の知能指数が200を超えていて測定不能のことや、地元では神童と呼ばれていたことも知らなかったので、口には出しませんでしたが、『やっぱり、こいつはアホだ。英作文は無理。性格がいいのが一番』と思って、授業を打ち切りました。」

「性格がいいのが一番ですよね」と町会長。

2021/2/4