「なぜ、脳の機能が低下し始めたのですか」と町会長。

「今まで勉強したことがないタイプの学問を勉強しようとすると抵抗を感じるようになったので、20歳を過ぎると脳がだめになっていくのだなと、その時は思っていました。」

「それでは、大学時代には陰の本のために脳が機能低下したことに気がつかなかったのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

「いつ、陰の本のために脳がだめになったことに気がついたのですか」と町会長。

「数年前です。僕が引っかかったのは、バートランド・ラッセルが書いた『The Principles of Mathematics』という本です。」

「バートランド・ラッセルというのは、どういう人なのですか」

「『哲学者は、皆、間違いを犯す。だから私は哲学の本は書かない』と言った人なのですが、ウィキペディアの『バートランド・ラッセル』に、『第3代ラッセル伯爵、バートランド・アーサー・ウィリアム・ラッセルは、イギリスの哲学者、論理学者、数学者であり、社会批評家、政治活動家である。ラッセル伯爵家の貴族であり、イギリスの首相を2度務めた初代ラッセル伯ジョン・ラッセルは祖父にあたる。名付け親は同じくイギリスの哲学者ジョン・スチュアート・ミル。ミルはラッセル誕生の翌年に死去したが、その著作はラッセルの生涯に大きな影響を与えた。生涯に4度結婚し、最後の結婚は80歳のときであった。1950年にノーベル文学賞を受賞している』という説明があります。」

「ノーベル賞を受賞しているような人が書いた本は信じてしまいますよね」と町会長。

「実は、バートランド・ラッセルがノーベル賞を受賞したことは知らなかったのですが、彼の生き方に共鳴できるところがあると思っていました。『The Principles of Mathematics』は、クラスという集合論的な概念を元にして、数とは何かを論理的に説明しようとしたのですが、その部分がどうしても理解できなくて、先に進めなくなってしまったのです。」

「『The Principles of Mathematics』は強い陰の本なのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。『ドキュメント ヴェトナム戦争全史』は驚くほど強い陰なのですが、『The Principles of Mathematics』は『ドキュメント ヴェトナム戦争全史』よりも強い陰なのです。その頃は、2歳のときの肺炎が原因で、足の筋肉が骨のように固くなっているという、人間とは思えないような状態だったので、それほど強い陰の本に触れても、体に何の変化も起こらなかったのです。」

「体に何の変化もなければ、陰陽は分かりませんね」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

「『ドキュメント ヴェトナム戦争全史』よりも強い陰であるということは、バートランド・ラッセルは、意図的に間違ったことを書いたということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。ラッセルは、『この本に書かれている間違いが分かる人はいるかな』くらいの気持ちで、書いたのだと思います。」

「イギリス人特有のジョークとして、書いたということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。僕みたいな、頭の悪いやつはジョークであることに気がつかなくて、脳がやられてしまうのです。」

「すごい本ですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。今考えれば、バートランド・ラッセルは陽の本しか書いていないのです。『The Principles of Mathematics』が驚くほど強い陰であることに気がつけば、読者は意図的な間違いがあることに気がつくと思っていたのに違いありません。」

「なるほど。」 

「ラッセルは、超天才だったので、頭の悪いやつがジョークであることに気がつかなくて、脳がやられてしまうようなことがあるとは、想像もしなかったのでしょう。」

「ところで、『The Principles of Mathematics』の間違いが、どうしても分からない人が、脳を元に戻す方法はあるのですか」と町会長。

「本を破って、ごみ箱に捨てれば、元に戻ります。古本屋に売ると、買った人に起こる脳の機能低下が返ってくるので、頭はさらに悪くなります。」

2021/1/28