「陰の本を所蔵していると老化がすすむのですか」とびっくりしたように町会長は言った。

「僕もそのことに気がついたのは、つい最近です。若返りを目指して、毎日休むことなく、腎の機能を上げる治療実験をしていたのですが、50台に入ってから老化が進むようになり、60代になると加速度的に老けていきました。薬学的な超能力があるので、ウェブを画像検索して、漢方薬やサプリを100種類以上試しましたが、何の効果もありませんでした。3年ほど前に、近所の84歳の方と話してから、家に帰って鏡を見たのですが、どちらが若く見えるかわからないほど老けていました。」

「もしかして、陰の本のために老化が進んだのに、そのことに気がつかなかったということですか。」

「おっしゃる通りです。母は、生前、書道を教えていたのですが、現在は物置になっている書道教室で探し物をしているとき、何百冊という強い陰の書道の雑誌を発見しました。ビックリしましたね。母も父と同様、大の陽好きで、陰のタケノコさえ、工夫して、陽にして出したほどでした。その母が何百冊と言う陰の雑誌を持っていたのです。陰の本が体に悪い影響を与えることを発見していたので、何百冊と言う本を破いてから焼却しました。破くと体が緩み、燃すと皮膚が緩むのです。毎日、体に大変化が起こり、動体視力が上がりました。体の変化を調整するために、毎日、数時間治療をしなければならないという状態が1カ月ほど続いたのです。

その後も、家探しして、陰の本を焼却しました。僕は、息子と違って、見ただけでは本の陰陽が分からないので、陰の本がだいぶありました。昔はどこにでもあった、『家庭の医学』と、医学の専門書が全部陰でした。若い頃買ったゴルフの本も陰でした。人の写真が載っていると陰になるので、分解写真付きのものは、驚くほど強い陰でした。卓球は、色々なスポーツの中で、唯一陽なのですが、人の写真が載っていると陰になってしまいます。分解写真を参考にすることはできないので、陽のDVDを参考にするしかないようです。鍼灸の本とか、経絡図の本も陰でしたが、学研の『図説東洋医学』と緑書房の『図説深谷灸法』だけ陽でした。経絡図は医道の日本社から出ている『臨床経穴図』だけが陽でした。治療にこだわりを持っていたのと、注意を集中しないと陰陽が分からないため、陰の本をだいぶ買ってしまっていたのです。

書道の雑誌を全部焼却するのに1カ月くらいかかりましたが、体に問題が生じるので、毎日4,5時間治療をしなければなりませんでした。人間は、老化する方向に進化しているのですが、若返るようには進化していないのです。そのため、何をやっても問題なく老化してしまうのですが、若返ろうとすると、予想もしないような問題が次から次へと出てきます。先ほど、お話ししたように、天才的な鍼灸師は1回目の問題が出たとき、全員死んでしまいます。

僕の持っていた陰の本は1時間ほどで処分できましたが、体の変化は、さらに1カ月ほど続きました。このとき、気がついたのは、脳が老化し、機能低下が起こっているため、当然起こるべき変化が起きないということでした。考えれば、経絡の親子の連動性により、経絡は少なくとも2億5千万年間累積して壊れていると言うことになります。最も古い、小脳と延髄が治療に大問題を起こしているのではないかと思いました。

体の変化が落ち着く頃には、鏡を見ると10歳くらいは若返ってっていました。しかし、このときは鏡によって若く見える場合とそれほどでもない場合がありました。鏡によっては、顔を映しただけで体に問題があることが分かるものがありました。鏡には、自分に優しい鏡と厳しい鏡があるんですね。

周りの人も、『確かに若返ったけど、元々老け込んでいたので』と驚いた様子はありませんでした。」

「それでは、その後もう一度若返ったのですか」と町会長。

「そうなんですよ。息子が陰の本を100冊以上持っていたので、陰の本を持っていると老化が進むと話したのですが、こだわりがあるらしく、処分しようとはしませんでした。それで、これ以上若返るのは無理かと思っていたのですが、思わぬところに陰の物があったんですよ。」

「子供が持っている陰の本で、親が老化するのですか」と町会長。

「触ったり、読んだりしなければ、直接は老化しないと思うのですが、少なくとも、親子の経絡の連動性で老化します。僕の作った陽のピラミッドの場合は、同じ家に住んでいる人全員に影響がありますが、陰の物はパワーに限界があるようです。」

「息子さんが陰の本を焼却しなかったのは、陰の本を持っていると老化が進むということが信じられなかったせいですか」と町会長。

「そうかもしれませんが、一番の理由は潜在意識がこだわりを突くからです。父も大の陽好きだったのですが、やはり、陰の本を持っていました。写真入りの武道の本です。人の写真が入っている本は強い陰になります。剣道をやっていたので、そのこだわりを突かれたのです。父が若い頃読んだという碧巌録と無門関という禅宗系の本を画像検索してみると、思った通り、碧巌録は強い陰でした。人間は、どうしても人生の目的は何かと言うことを考えずにはいられないようで、そこを潜在意識に突かれて、強い陰の宗教哲学的な本を読んでしまったようです。僕も高校時代から、カントだとかデカルトだとかが書いた本を、強い陰だと気がつかずに読んでいました。」

「宗教の本や哲学の本は強い陰なのですか。」

「哲学や宗教を勉強していた頃は、陰陽が分からなかったので、陰陽については記憶がないのですが、カントやデカルトが書いた本には、明確な誤りがあるので、間違いなく陰のはずです。ウェブで画像検索すると、無門関は意外なことに強い陽でした。宗教関係の本は、陰の本が多く、僕が知っているもので陽なのは、正法眼蔵だけだったので意外でした。正法眼蔵は鎌倉時代に書かれた本ですが、空時と言う章があって、空間と時間の一体性を説いています。ハイデッガーが『存在と時間』を書いたのは20世紀ですから、驚くべきことです。ハイデッガーが書いたのは、アインシュタインが一般相対性理論を発表した後です。」

「特殊相対性理論から導かれたウラシマ効果で時空の不可分性が分かっていたときですよね。ところで、宗教の本でも、誤りがなければ、陽になるということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。バートランド・ラッセルが言うように、哲学者は、皆、誤りを犯してしまうようです。正法眼蔵を書いた道元や無門関を書いた無門慧開は例外的な存在で、先達の言うことを鵜呑みにせず、徹底的に真理を追究し結果、陽の本を書くことができたと推定しています。

話が脱線してしまいましたが、2度目の若返りが起こったのは、つい最近です。前回は、若返ったと言っても、やっと年相応という状態だったので、『渡辺さんは老け込んでいたから』と言う人はあっても、『若返った』と言う人はいませんでした。ところが今回は、会うたびに『若返った』と言う人がいます。一番びっくりしたのは息子みたいで、まじまじ顔を見つめられてしまいました。実際、この時から息子は若返ろう頑張るようになっています。」

「2度目の若返りは、息子さんが陰の本を処分して起こったのではないのですね」と町会長。

「息子の陰の本に対するこだわりは、そんなに甘くないです。」

「それじゃあ、なぜ2度目の若返りが起こったのですか」と町会長。

2019/9/27