「この庭に来るイノシシは2グループあるみたいです。一つは、東側に植えてある梅ノ木づたいに来て、裏庭の東側に侵入するイノシシです。もう一つのグループは、庭の西側に侵入するイノシシで、うり坊が2匹いるのを確認しています。」

「ウリボウというのは、子供のイノシシのことですよね」と町会長。

「おっしゃる通りです。多分、西側に来るグループは、母イノシシが子供を連れてきているのだと思います。」

「イノシシも母親が子供の面倒を見るのですか」と町会長。

「そう言われていますが確認はしていません。最初に気がついたのは、東側に来るイノシシは東側にしか来ないことです。外を回って門から侵入してきてもよさそうなのにと思ったのですが、梅ノ木づたいに来て、裏庭の東側に侵入することにこだわるのです。」

「西側に来るグループは、東側には来ないのですか」と町会長。

「見たのは夜間がほとんどなので、確信はありませんが、荒らし方や逃げるときの鳴き声から、そう推定しました。最初は、イノシシには、はっきりしたテリトリーがあるのかなと思っていたのですが、もしかしたら、イノシシ一家が手分け作業をしているのかも知れません。」

「なるほど。カシの木の防風林がある西側には、母猪とウリボウが、東側には父猪がきている可能性があるのですか」と町会長。

「東側で一度だけうり坊の鳴き声を聴いたことがありました。そのとき、もしかしたら、今夜は父イノシシがうり坊を連れて来ているのかなと思ったことがあります。」

「なるほど。うり坊は夜中に鳴き声をだすのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。人間が吠えられるときの声とは違って、話をしているような感じです。東側に来るイノシシは、一匹で来ていることが多いような気がします。よく考えてみると、そのイノシシは、イノシシ同士のテリトリー争いのやり方で、僕と戦っているようなのです。」

「テリトリー争いですか」と町会長。

「ソーラーパネルを早朝来てひっくり返したように、イノシシとしての意地を見せるのです。」

「イノシシ同士のテリトリー争いでは、意地を見せないといけないのですね」と町会長。

「そうとしか考えられないので、僕も意地を見せるようにしています。猫と同じようにイノシシも直接の対決は避けようとします。最初は吠えて威嚇します。人間を威嚇するのは夜だけです。暗くなったとき、吠えれば人間は驚いて逃げるということを熟知しています。夜、裏庭に行くとイノシシが吠えて威嚇することがあるのですが、肥田式をやって気合を入れると、イノシシは驚いて逃げていきます。声が大きい方が勝ちなのだと思います。」

「吠えても、気合で対抗すると逃げていくのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。梅澤さんに初めて肥田式を見せたとき、『ああ、驚いた』と言っていたので、夜は弱いはずの人間が大声を出すと、イノシシも驚くのでしょう。吠えて脅しても相手が逃げない場合、先ほど話した線的な行動と関係している次の攻撃ステップに入ります。

例えば、初めて砂利を撒いたときは効果がありましたが、2日すると、またハイゴケに来て意地を見せようとします。このときも、そうなのですが、砂利を回避して、他からハイゴケに来ようとはしないで、2、3日かけて、砂利に対する不安感が薄れてから、砂利までの動線をさらに伸ばすというやり方でハイゴケまで来るのです。」

「なるほど。『線的な行動』というのは、『A点からB点を経由してC点に行こうとするとき、B点で不安を感じると、他の点を経由してC点に行こうとはしないで、B点まで何度か来て不安が薄れたところで、C点に行く』ということなのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。どうも、イノシシはうらやましいほどの記憶力があるみたいで、自分が歩いたところは細かいところまで覚えているようです。そして、鬱なので記憶にある所を歩いているときには不安を感じないが、歩いたことがないところを歩くのは強い不安を感じるようなのです。」

「なるほど。今まで歩いたことがないところを、ぐるっと回って、ハイゴケに行くなどということは不安でできないということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。しかし、僕が気合をかけたときには、山に向かって一目散に逃げます。パニック状態になると知的な判断はできないようです。線的な行動を取るのは心に余裕があるときだけです。」

「なるほど」と町会長。

2019/12/9