「永井と毎週碁を打っていたのですが、3カ月ほどすると、突然、英会話を止め、碁を打つこともなくなったのです。囲碁の必勝法の研究は、とっくの昔にあきらめていたのですが、徳川家康がアマの5段ぐらいだったという話を読んだことがあったので、5段まで頑張ってみようと思いました。」

「徳川家康はアマの5段ぐらいだったのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。徳川家康の打った棋譜が残っていて、プロが並べてみると、アマの5段ぐらいということが分かるようです。」

「なるほど。織田信長や豊臣秀吉は、何段ぐらいだったのですか」と町会長。

「本因坊算砂という人が、織田信長と豊臣秀吉と徳川家康に碁を教えているのですが、3人とも同じくらいのレベルだったようです。」

「なるほど。それでは、5段まで頑張ってみようという気になりますね」と町会長。

「おっしゃる通りです。半年ぐらいしたとき、碁会所の先生が『今日から5段で打つように』と言われ、2段の人と打つことになりました。」

「1年では無理だと言われたのに、半年で5段になってしまったのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

「それでは、やはり、才能があったのではないですか」と町会長。

「その時は、才能があるのかもと思ったのですが、後で、才能は全くないことに気がつきました。」

「しかし、5段になれる人は少ないですよね」と町会長。

「それは、囲碁が人間の脳の弱点を徹底的につくようなゲームであることと、囲碁好きの人は、絶対に負けたくないためです。」

「絶対に負けたくないと、5段になるのが難しいのですか」と町会長。

「有段者になると、打った石の効率が問題になるのですが、絶対に負けたくない人は、石の効率を考えないで、自分の石が取られないように用心して打ちます。」

「それはそうですよね。石が取られたら負けてしまいますからね」と町会長。

「確かに、そうかもしれませんが、2段の人と打ったときは、驚きましたね。」

「2段の人は、自分の石が取られないように用心して打ったのですか」と町会長。

「僕は、5段だと思い込んでいた永井と碁会所の先生と4段のプロとしか打ったことがなかったので、2段の人の碁は驚きでした。『こんな碁を打っているのか』と思いましたね。」

「『こんな碁』と言いますと?」と町会長。

「負けたくないという気持ちが盤面に出ている碁で、石の効率なんて考えていないんじゃないかと思うような碁でした。」

「それで、どうしたのですか」と町会長。

「勝つには、先生がやっているように乱戦に持ち込むしかないと思いましたが、ここまで負けたくないのであれば、乱戦は避けて、ご希望の囲い合いにしてあげようと思いましたね。」

「それで、負けてあげたのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。僕のやる気のない碁を見ていた、同級生のお兄さんが、2、3日後に顔を合わせたとき、『5段が打つ碁は、あれでいいんじゃないのかね』と言いました。」

「要するに、5段になるには石の効率を考えなければならないのだけれだ、負けたくない人は石の効率より、石を取られないことを優先的に考えてしまうということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。武宮正樹本因坊に負けたとき、やっと気がついたのですが、他の5段の人は自分より強い人と打つときは、石の効率より、石を取られないことを優先的に考えて打つようです。碁の好きな実践派は、皆、同じで、間違った手を繰り返し打って、身に着けてしまうため、上達が遅いのだと推定しています。」

2020/6/18