「脳は、皮膚や粘膜、脳の軟膜、骨膜を中心にカルシウムの沈着させて可動性を低下させることによって、経絡を支配しているという仮説に基づいて治療し、若返りにもある程度成功しています。」

「なるほど。頭は薄いですが、若返っているのは、確かですね」と町会長。

「そうなんですよ。免許証の写真と鏡に映る顔を比べると、自分のことながら別人という感じがして、運転中に警察の検問があったらどうしようかと心配しています。最近、急激に若返りだしたので、月に2、3回顔を合わせるクロネコヤマトの配達員が、毎回、ぎょっとして見つめるくらいですからね。」

「しかし、頭が思いっきり薄くて、髭も白くなってきていますね」と町会長。

「そうなんですよ。肺虚がひどいためだと思うのですが、今まで経験したことがない現象なので、治療しながら様子を見るしかないと思っています。」

「ところで、『脳が皮膚や脳の軟膜、骨膜にカルシウムを沈着させる』ということは科学的に証明されているのですか」と町会長。

「経絡の治療実験によって、科学的な研究の入り口までやっとたどり着いたところです。残念ながら、生体内のカルシウムの機能は極めて複雑なので、小脳の機能がもっと上がらないと、科学的に証明するという領域には入れそうもありません。」

「生体内のカルシウムの機能は極めて複雑なのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。半世紀以上前に『カルシウム・パラドックス』と呼ばれる不思議な現象が発見されて以来、多くの科学者が生体内のカルシウムの役割に強い関心を持ち、様々な研究がされているのですが、未だに『カルシウム・パラドックス』の謎は解けていません。」

「『カルシウム・パラドックス』といいますと?」と町会長。

「ウィキペディアには、『1967年にZimmermanらが心筋を灌流する実験において、カルシウム欠乏溶液で処理した後にカルシウムを含む溶液に移し変えると、心筋細胞中にカルシウムが流入し心筋が損傷・壊死する不思議な現象に対して名づけた用語である』という説明があります。」

「灌流と言いますと?」と町会長。

「臓器や組織に液体を流すことです。」

「心筋に液体を流したのですか」と町会長。

「Zimmermanらの実験では、分離されたラットの心臓にカルシウムが入っていない心筋保護液を流した後、カルシウムが入っている生理的食塩水をを流しています。」

「思いっきり、残酷な実験をしたのですね」と町会長。

「そうなんですよ。それで、ウィキペディアでは理解しにくい表現になっています。この研究の発表の後、あまりにも不可解な現象なので、医学研究者が同じ実験をやりまくっています。」

「これは不可解な現象なのですか」と町会長。

「低濃度のカルシウムが入っている生理的食塩水を流す前は、ラットの心臓が動いていたのに、低濃度のカルシウムが入っている生理的食塩水を流したら、心臓が止まっただけでなく、心筋細胞の細胞膜が変質し、細胞内の物質が流出してしまっていたのです。」

「なるほど。低濃度のカルシウムが入っている生理的食塩水で心筋細胞が損傷を受けたり、壊死する理由が分からないということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

「生体内のカルシウムの機能は極めて複雑なので、未解明なことが多いのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。例えば、細胞内のカルシウム濃度は、血液中のカルシウム濃度の1万分の1で、骨のカルシウム濃度の1億分の1です。」

「血液中のカルシウム濃度は、骨のカルシウム濃度1万分の1ということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。カルシウムイオンが細胞内に流入すると、細胞内のタンパク質と結びついて、細胞が変化するということは分かっています。」

「そのために、細胞内のカルシウム濃度が低くなっているが、なぜ1万分の1なのかが分からないということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

「なるほど。それでは、経絡とカルシウムの関係を科学的に突き止めるのは容易ではなさそうですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

2020/6/30