「先ほど、話したように、日本人は主観を通して物を見たり、理解したりしていると考えているので、客観的な正しさを認めないところがあり、悟りを開いた人であっても、その悟りを誰もが理解できるように説明しようとはしないのです。」

「なるほど。それでは、『縁起』の説明を書いた人が悟りを開いたかどうかを判断する方法がありませんね」と町会長。

「そうなんですよ。それで、中神先生が空について話されようとしたとき、どういう理解の仕方をしているのか知るために、ひたすら聞くことにしたのです。」

「なるほど」と町会長。

「しかし、空についての話は、すぐ終わって、チャクラの話になりました。」

「『チャクラ』と言いますと?」と町会長。

「中神先生は曼荼羅なども持っていて、密教に深い造詣があったので、『チャクラ』についても研究していたのだと思います。」

「渡辺さんは、『チャクラ』について研究したことはないのですか」と町会長。

「僕の哲学の研究が『チャクラ』という概念とかかわったことはありません。僕が知っている概念で『チャクラ』に最も近いのは、『腎兪』という概念です。肩の腎兪とか、臍の腎兪とか、小脳の腎兪と言うように、全身に散在しているところが『チャクラ』の概念と似ています。」

「『腎兪』は、哲学の概念ではなく、経絡治療の概念ではありませんか」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

「それでは、中神先生は経絡治療もするのですか」と町会長。

「経絡治療はしませんよ。」

「それでは、中神先生はチャクラについて、どういう話をされたのですか」と町会長。

「中神先生は、毎年、夏はスイスに行って、山小屋を借り、自炊しながら、瞑想したり、絵を描いたりするのだそうです。」

「優雅な生活ですね」と町会長。

「そうなんですよ。三度目の訪問をしたときっだったと思いますが、画家としての経歴をお伺いしたことがあります。中神先生は、『絵の学校に行ったり、先生についたりして勉強したことはない』と言っていました。」

「画家なのに絵の勉強をしたことがないのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。『子供の頃から絵を描くのは好きだったが、勉強したことはなく、早稲田の国際経済学部を卒業して、普通の会社に35歳まで勤めていた』と言っていました。」

「それでは、35歳のとき、突然、プロの画家になったということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

2020/9/28