「あるとき、画廊で個展をしていると、お客さんの一人が『君、こんな絵を描いていたらだめだ。僕が金を出してやるから、ヨーロッパへ行って、絵の勉強をして来なさい。』と言って、お金を出してくれたそうです。」

「不思議な人がいるものですね。絵に、よほど見どころがあったのでしょうね」と町会長。

「絵が気に入っただけでなく、ヨーロッパへ行けば、レベルの違うものになるという確信があったということですね。よほど絵に詳しい、お金持ちだったのでしょう。」

「中神先生はヨーロッパへ行ったのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。『ヨーロッパの景色は、日本の景色と違い、何も考えなくても、そのまま絵になってしまう』と中神先生は言っていました。」

「ヨーロッパの景色は、日本の景色と違うのですか」と町会長。

「中神先生は、『ヨーロッパの景色をキャンバスに描こうとしたら、現在のスタイルができあがってしまった』と言っていました。」

「ヨーロッパの景色を見て、キャンバスに描こうとするだけで、絵の勉強になってしまったということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。『子供の頃から絵を描くのは好きだったが、勉強したことはない』と言っていたので、ヨーロッパの景色を自分流に描いただけで、新しいスタイルが生まれたということだと思います。」

「ヨーロッパへ行って、絵を描いただけで、プロとしての絵が描けるようになったのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。僕が知り合った頃は、有名な画家になっていたらしく、一度見に行ったことがありますが、日本橋の高島屋の催会場を使った、中神先生の偉大さが感じられる豪華絢爛な個展でした。話に聞いた通り、ほとんどの絵が売約済みになっていました。」

「そこまで行くと、毎年、夏はスイスに行って、山小屋を借り、自炊しながら、瞑想したり、絵を描いたりする生活ができるようになるのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。中神先生は、『昔は、毎年ここで展示会をやっていたのですが、僕の絵はここに展示する前に売約済になってしまうものが多くて、高島屋が儲からないので、だんだん疎遠になってしまったのです。ここに展示するのは数年ぶりですよ』と言っていました。」

「展示する前に売約済になってしまうのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。早稲田大学や有名な寺院に飾ってあるということなので、何号ぐらいの大きさで、こういうところに飾る絵が欲しいというような予約注文が入ってしまうのだと思います。僕も知り合いに頼まれて、同じことをしているし、早稲田の同級生も同じことをしているようです。」

「よほど素晴らしい絵なのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

2020/10/1