梅澤さんがサーブの練習をして来るのは分かっていたので、もし「今日はどうしますか」と聞いてきたら、「お手柔らかにお願いします。1セット取れるくらいお手柔らかにお願いします」と言うことにしていた。僕に合わせてサーブの練習や対戦のシミュレーションまでする人が、「お手柔らかに」に対戦するはずがないと思ったからだ。

丸善スポーツの卓球場に行くと梅澤さんは既に来ていた。そして、案の定「今日はどうしますか」と聞いてきた。「お手柔らかにお願いします」と言うと、虚を突かれたみたいで、「えっ、今日は『お手柔らか』でいいんですか」と聞き返してきた。「1セット取れるくらいお手柔らかにお願いします」と言うと、「それはダメです。1セット取らせたら皆に言うじゃないですか」と言う。筋トレをやって体を仕上げて来たので、お手柔らかにやっても3本以上は取らせないと言う。

去年、梅澤さんを追い詰めたとき、最初は5キロぐらい走って動体視力を上げてきたようだが、途中から10キロ近く走っているような感じだった。以前、「動体視力は走れば、走るだけ上がり、毎日30キロ走って世界選手権で優勝した日本人選手がいる」と話したことがあった。しかし、その後の研究で5キロを超えて走るとフリーラジカル(活性酸素)で脳の機能が低下することに気がついた。

梅澤さんはいつまでも卓球は続けたいタイプなので、メールで「5キロを超えて走ると選手生命が短くなるので、僕は動体視力を上げるために走ることはしません。フリーラジカルで脳の機能が低下し、選手生命が短くなるからです。その代わりに、囲碁による脳トレと肥田式をやっています」という趣旨のメールを送っておいた。しばらく5キロくらい走っているような感じだったが、肥田式で動体視力が上がったため、走るのを止めたようだ。しかし、先月、僕に7本取られたため、サーブの練習だけでは不安で筋トレで体を仕上げたみたいだ。「ここまで体を仕上げると技術に関係なく強くなるんです」と言っていた。

試合は、第1セットが5本、第2セットが2本、第3セットが4本で完敗した。梅澤さんの体が仕上がっているとき、この成績ならば、1年以内に勝てる可能性があると思った。対戦してみると、梅澤さんのボールのスピードが予想より遅くて、打ち損なったケースが多かった。僕の動体視力が上がるスピードの方がわずかに早いようだ。そのため、梅澤さんは限界的なサーブを打つしかなくて、3セットで2本サーブミスをした。今までにないことだった。梅澤さんの動体視力が、さらに上がった場合、今日のようなスピードと切れのあるサーブは入らなくなる。

第3セットでバックハンドスマッシュが決まったときには、「今のは5本分ぐらいの価値がある」と褒められた。3球目攻撃で打った球が、ネットをかすったため、梅澤さんは低めのロブでバックいっぱいに返してきた。バックに来る高い球は返球が難しいのだが、動的動体視力が高くなったため、打てるようになっていた。スピードも十分あって、梅澤さんのバックをノータッチで抜くことができた。

サーブが梅澤さんの番になったとき、バックに打ちやすそうなボールが来た。バックハンドで打つと、梅澤さんは、回り込んで、フォアハンドで僕のフォア側に打ってきた。そしてノータッチで抜かれてしまったが、速いというよりは油断したという感じだった。梅澤さんが意地を見せた瞬間でもあった。試合が終わってから、「心理学が得意だ」と言っていたのを思い出した。

2019/12/1